桑名大伸が考える
デザインとは?
INTERVIEW
ABOUT THE DESIGNER
デザイナー紹介
ウォッチロガーのスタイリッシュなプロダクトデザインを手掛けて頂いたアレックスデザインの代表である桑名 大伸氏。
幼少期より図案に興味を持ち、ガソリンスタンド、プロ野球チーム、モータースポーツのロゴタイプ・シンボルマークに惹かれる。
主にブランディング、書体、シンボルマークを得意とする。さまざまなジャンルのデザイン、アートワークを経験し現在に至る。
近年、メジャーリーガー・D投手のオリジナルブランドのデザインチーフを務める。
CONTENTS
インタビューコンテンツ
デザインの仕事を受ける基準は
「見た人にわくわくしてもらえるかどうか」
桑名さんがこれまでにデザインを手がけられた代表作について、教えてください。
桑名
メジャーリーガーのD投手のオリジナルブランドのグローブやトレーニングウェアを始め、企業のブランディングなどです。
CG作品としては、アパレルブランドのポスターやウェディング雑誌の表紙、本の装丁などがあります。
3DCGを活用した作品では、藤子・F・不二雄プロの「THE DORAEMON展」のポスターやグッズ、ウォルトディズニー生誕100周年記念や、ファッションブランド「BEAMS」のグラフィックなどを手がけました。
ブランディングデザインでは、ビジネス英語研修のQ-Leap株式会社のオフィスやパンフレット、インテリアショップ「Francfranc(フランフラン)」、東京コレクション出展のブランドなどを手がけてきました。
さまざまなジャンルのデザインを手がけているんですね。
ブランディングデザインとは何ですか?
桑名
ロゴやフォント、カラースキーム、パッケージデザインなど、さまざまな要素から構成される企業や商品のイメージを形成し、その魅力を最大限に引き出すことです。
仕事の依頼が入った際に、引き受けるかどうかの判断基準は「グラフィックを見た方がわくわくするかどうか」。やはり、顧客も、その先にいるエンドユーザーも、皆がハッピーになる事を心掛けています。
「デザイナー 桑名 大伸」が
誕生するまで
子どもの頃からデザインに
興味があったのですか?
桑名
小学校2年生の頃に買ってもらった紙工作の本が大好きで、掲載の紙工作を何個も作って遊んだことを覚えています。
また、父が大工だったので廃材を利用して船や車を作って遊んでいました。
こうした遊びが、思い返せば、今の仕事の原点になっているのかもしれません。
その延長で、さまざまなジャンルの公募が掲載されていた雑誌「公募ガイド」から、デザインのジャンルに応募するようになりました。小学生から高校生まで公募を続けてたのですが、バイク雑誌や、ソフトテニスの月刊誌のイラストコーナーなど、複数の公募で入賞したんです。
この時に「課題をもらってデザインする」というスタイルに慣れました。
ただ、そのままデザイナーを目指したわけではなく、高校卒業後は警察官に。広報部の仕事を頼まれて、そこでイラストを描く仕事などをしていました。
仕事自体は楽しかったのですが、「この仕事をするのに、警察官である必要はないな」と思うようになったんです。「だったらプロのデザイナーになろう」と考え、警察官を辞めてデザインが学べる専門学校へ入学しました。
社会人から再び学生に戻るというのは、なかなか思い切った決断ですね。
桑名
はい。ただ、公募で何度も受賞した子どもの頃の経験が、多少なりとも自信になっていたのだろうと思います。
兄がデザイン会社を経営していたことも大きかったですね。80年代後半にMacが世に出てきたのですが、当時は高額だったので専門学校には数台しか設備されていなかったので、学生同士で取り合いになっていたんです。
幸いにも、兄の会社でMacを導入することになりました。これが面白くて、徹夜でillustratorを触っていたら、自然と身に付きましたね。
また、兄にカタログやパンフレットのデザイン、イラストなどを頼まれて、手伝っているうちに、在学中に各方面から仕事が舞い込んでくるようになったんです。
専門学校を卒業後は、しばらく兄と一緒に仕事をした後、30歳でデザイナーとして独立しました。
現代美術家の中村 哲也氏とは、
幼馴染(おさななじみ)なのだそうですね?
桑名
ええ、彼とはよく一緒にプラモデルを作った仲です。彼は、立体が得意だったので、いろいろと教えてもらううちに、私も立体感が身に付きました。彼と一緒にいることが多かったので、自然とその流れでお仕事をいただく機会もありました。
ウォッチロガー(WATCH LOGGER)との出会い
藤田電機製作所のウォッチロガー(WATCH LOGGER)のデザイン依頼は、
どのような経緯だったんですか?
桑名
ポートレイトを中心に幅広い分野で活動されている写真家のNOJYO(ノジョー)さんからの紹介です。
以前、NOJYOさんと一緒に仕事をした時に、彼との相性の良さを強く感じました。彼は情緒的で、かっちりとしていない表現が素敵で、毎回すごく刺激をもらえるんです。
彼の良さを知っているので、バンドでいえば、彼のギターを活かすには、どうセッションするのがベストなのかを考えると、わくわくしてくるんです。時には伴走し、寄り添ったり、後ろから支えたりと、楽しみながら仕事ができる。
そのNOJYOさんと、藤田電機製作所の方が知り合いで、ウォッチロガー(WATCH LOGGER)の製品撮影をするカメラマンとしてNOJYOさんに声がかかり、NOJYOさんから紹介を受けて、参加させていただくことにしました。彼が持ってくるセッションは楽しいですからね(笑)。
以前から、工業系のデザインの
ご経験があったのですか?
桑名
SHARPの製品を数点、デザイン監修したことはありますが、本格的にデザインを担当したのは初めてでした。
データロガーという製品ジャンル
そのものはご存知でしたか?
桑名
いいえ、知らなかったので勉強しました。
ただ、藤田電機製作所さんから約15年前に初めて「これは、ロギングする測定器です」と説明を受けた際、すぐには理解できなかったものの、「記録を取り続ける行為」というのは、なんだか流行する気がしていました。「“ロギング”という言葉も、流行するかもしれないな」と思ったのを覚えています。
今はApple Watchやスマートフォンで、さまざまな物理量をロギングしますが、15年前に感じたことは間違いじゃなかったと自負しています(笑)。
ウォッチロガー
(WATCH LOGGER)のデザインで、
こだわった点は、どこですか?
桑名
デザイン前の本体パネルを見せていただいたのですが、全機種ともブルーのパネルで、左下に小さく機種番号が印字してあるだけでした。「これは、一見して数ある機種が同じに見えて現場で作業上のミスが発生するんじゃないか?」という懸念を抱いたため、指摘させていただきました。
「温度」「温湿度」「衝撃」といった機種の違いが、どれも同じ色では見分けがつかないため、色で機種の違いを分けピクトグラム(絵文字)で性能を分けることで、一目でわかるように提案したんです。
ほかの工業製品を研究していると、単色か1~2色でデザインされている製品が多かった。そこで、競合他社との差別化のために、あえて工業製品ではあまり使われない色を採用し、機種番号を大きく表示することにしました。
たしかに、よく見るとほかの製品では、あまり使用されていない色ですね。
桑名
色にこだわってシンプルに仕上げたので、発展性にも対応できます。たとえば、温湿度タイプのBluetoothやWiFiモデルができた時は、ラインを入れたり。同色のメタリックにも展開できます。
「KT-155F」のピンクは、よくコスメのファンデーションやリップに使われるお洒落な色です。メイクでリップの上にラメをのせる手法がありますが、それがまさに先ほどの発展性の話です。
ほかのデザイナーさんがウォッチロガー(WATCH LOGGER)を見ると、
「よく考えられたデザインですね」と言っていただくことが非常に多いです。
桑名
ありがたいですね。
私は、商品の中で、デザインというのは付加価値ですから、その部分で、本商品を引き立てる役割がどれだけ果たせるのかを考えました。
データロガーを知らなかった分、素人視点で捉えられた。その視点から「こういう風に売ったら面白いんじゃないか?」と発したアイデアを、藤田電機製作所さんに聞き入れていただけたのだと思っています。
普通なら、デザイナーの製品ブランディングの話なんか、クライアントは聞いてくれないですから。それが、「気になったこと、感じたことは遠慮せず何でも言ってください」と、当時の専務さんに言っていただけたのは、嬉しかったですね。
グッドデザイン賞を
受賞できた理由
ウォッチロガー
(WATCH LOGGER)は、
2009年度グッドデザイン賞を受賞しました。
桑名
時代を見越してデザインしたことと、ビジネス環境の変化と藤田電機製作所の研究開発に合わせて製品点数が増え、これだけのラインナップが揃った結果が受賞につながったのだと思っています。「選ばれるべくして選ばれたのかな」と思うところはあります。
― 2020年には、日本政府より「超低温冷凍庫(‐75℃対応ディープフリーザー)の割り当て等について」、「低温冷凍庫(‐20℃対応:据置型)の割当て等について」に基づき、ファイザー社(‐75℃)、モデルナ社(‐20℃)のワクチン保管用として「KT-155F/EX(LED)」「KT-155F」が採用されました。
マイナス80℃まで測定できる超低温環境に適したデータロガー「KT-155F/EX(LED)」
桑名
国に採用されたということは、機能もさることながら、デザインについてもお墨付きをもらったと捉えることができます。たとえば、これが奇抜なデザインだった場合、採用されなかった可能性もありますよね。
ただ、仮に色が指定されたとしても、これまで長年、デザインについて考えてきた蓄積があるので、臨機応変に対応できたのだろうとは思っています。
「KT-155F/EX(LED)」に採用したブルーは、結果的に、清潔感もあって良い印象を与えたのではないでしょうか。
工業製品なのに温かみがありますよね。
デザインで意識していることはありますか?
桑名
どうせ作るなら、やはり「何かを伝えたい」という想いが、根底にあるかもしれません。個人的にも、そういったデザインが好きですね。
同業者に私の作品を見てもらった時、「なんか楽しい。伝わってくるものがある」と言っていただくのを、最大の褒め言葉として受け止めています。
クライアントに要望された通りに創ったデザインもありますが、基本姿勢として、私のアイデアでイメージを提案したい。たとえ、それがボツになったとしても構わないんです。これまでそうしてきてたことが仕事につながったと実感することも多々あるので、一定の評価はいただけているものと自負しています。
ウォッチロガー
(WATCH LOGGER)の
デザインの未来
今後、ウォッチロガー
(WATCH LOGGER)に
期待することはありますか?
桑名
私からの提案としては、製品アピールの手段として、アメリカンコミックのヒーローのようなキャラクターを創ったら面白いのではないかと思います。
MARVEL(マーベル)のアイアンマンやスパイダーマンみたいなものですか?
桑名
そうです。Webサイトのトップページに掲載したり、販促物にも使えますしね。
擬人化することで、温度や湿度、衝撃の見張り役みたいな印象が表現されます。
ウォッチロガー(WATCH LOGGER)は、デザインにも伸び代がありますが、製品の機能にも伸び代があると考えています。たとえば、‐80℃の超低温に対応できるなど、さらに新しいセンサーが作られる可能性があります。そんな、時代を担うウォッチロガー(WATCH LOGGER)に、付加価値と存在感を与えるのが私のデザイナーとしての仕事なのではないかと考えています。
本日は、お忙しいところありがとうございました。
桑名
こちらこそ、自分の仕事を改めて振り返ることができました。
ありがとうございました。
PROFILE
プロフィール
桑名 大伸 (Hironobu Kuwana)
アレックスデザイン 代表
幼少期より図案に興味を持ち、ガソリンスタンド、プロ野球チーム、モータースポーツのロゴタイプ・シンボルマークに惹かれる。主にブランディング、書体、シンボルマークを得意とする。さまざまなジャンルのデザイン、アートワークを経験し現在に至る。近年、メジャーリーガー・D投手のオリジナルブランドのデザインチーフを務める。