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美術館業界で使用されるデータロガーとその可能性

美術館業界で使用されるデータロガーとその可能性

美術館では作品を良好な状態で保存するために適切な環境を維持することが非常に重要です。作品の状態に影響を与える温度や湿度の微妙な変化を常に監視する必要があります。また、作品を国内外に輸送する際の振動や衝撃も把握しなければなりません。最近では、データロガー技術の進歩により、これらの環境データを高精度に記録・分析できるようになりました。データロガーはコンパクトで取り付けが簡単なうえ、長期間の連続測定も可能です。収集したデータを活用することで、作品の劣化や破損リスクを最小限に抑え、最適な保存環境を維持できます。この記事では、美術館でのデータロガーの具体的な活用方法とその重要性について解説します。

目次

データロガーの重要性

―作品の保存に欠かせない要素

美術館で作品を長期的に保護することは、芸術作品の持続的な価値を守るために非常に重要です。作品は温度、湿度、光、振動などの環境要因、経年劣化によって劣化します。特に温度と湿度は、作品の素材ごとに最適な条件が異なるため、細かく管理する必要があります。データロガーを使用することで、これらの環境データを高精度に記録し、変化をモニタリングすることができます。

 例えば、油絵は高湿度で垂直方向に歪みやすく、彫刻品は乾燥によって亀裂が入りやすいです。そのため、作品ごとに異なる理想的な環境条件を考慮することが重要です。データロガーによって収集された詳細な情報をもとに、展示室や収蔵庫の環境を細かく管理することで、作品の品質を長期間保つことができます。また、記録されたデータを分析することは温湿度の変動パターンを把握し、空調設備の改善や展示方法の見直しのタイミングを決めることができます。突然の環境変化が起きた場合でも、過去のデータと比較することで原因を迅速に特定し、適切に対処することが可能です。このように、データロガーは美術館での作品保存に不可欠な役割を果たし、芸術文化の継承において重要な存在となっています。

―環境データの記録と分析

記録したデータを適切に分析することで、以下のようなメリットがあります。

1. 作品ごとの理想的な環境条件を特定し、空調設定の最適化を行える
絵画や古文書などの保存には湿度や温度の管理が欠かせず、特定の条件下での保管が必要です。空調設定の最適化を行うことで、作品の劣化や変色を防ぎ、長期保存するための環境を整えることができます。適切な環境条件を整えることで、作品の保存や展示において最良の状態を維持し、文化財の保存に貢献します。

2. 温湿度の日内変動や季節変動のパターンを把握し、予防保全対策を立てられる
このデータの分析により、特定の部屋やエリアにおける温度や湿度の変化を理解し、予防保全対策を適切に検討できるようになります。高温多湿な日中において部屋の温度が上昇する傾向がある場合、効果的な換気や冷房設備の活用によって建物内の環境を改善し、快適な生活空間を確保することが可能です。また、季節ごとの温湿度変動を把握することで、冬場の乾燥や夏場の蒸し暑さなど、季節に応じた課題に対処するための適切な施策を考えることができます。

3. 展示室の配置換えによる作品への影響を環境データから検証できる
展示室内の展示物が適切に鑑賞できるように様々な照明条件や温度湿度、光の向きを考慮することが重要です。特に、貴重な美術作品や歴史的資料を展示する際には、環境条件の変化が作品の劣化や変色に影響を及ぼす可能性があるため、環境データを活用して展示室の配置を再考しましょう。

4. 不適切な環境変化が発生した際の原因特定と対策が可能
美術品に影響を及ぼす温度や湿度の急激な変化が起こった場合、データロガーによって記録された情報を分析することで、問題の原因を特定することが可能です。その結果得られた情報を基に、空調設備の調整や展示品の配置変更など適切な対策を講じることで、美術品の保存状態を保つことができます。

データロガーにより得られる客観的な環境データと、その詳細な分析は、作品の保存状態を科学的に評価し、適切な対策を講じるための貴重な情報源となります。

データロガーの機能と特徴

―高精度な環境データの収集

高精度な環境データ収集が重要な理由は以下の通りです。



1. 作品保存への影響が小さな環境変化でも検知する必要がある
美術品は温湿度、照度、紫外線量の微小な変化にも影響を受けやすいため、高精度なセンサーでデータを記録することが不可欠です。わずか1℃の温度変化でも作品に影響を与える可能性があります。

2. 長期的なデータのトレンドを正確に把握する
作品の経年劣化は長期間にわたる環境の積み重ねが要因となるため、月単位、年単位での環境データトレンドを高精度で記録する必要があるでしょう。

3. 空間的な環境の違いを把握する
展示室内の場所によっても、温湿度や照度が異なる場合があります。高精度な計測により、そうした空間的な環境の違いを正確に捉えることができます。

一般に美術館で使用されるデータロガーは温湿度計測で±0.3℃、±3~5%RHの高精度を実現しています。また、照度や紫外線量についても高精細なセンサーが搭載されている機種もあります。こうした高精度なデータの収集によって、作品保存に適した環境を細かく特定できます。

―コンパクトで簡単な取り付け方法

これは展示空間の雰囲気を損なわないよう配慮するためです。例として、株式会社藤田電機製作所のWATCH LOGGER(ウォッチロガー)を挙げます。



 

 WATCH LOGGERは一番小さいものでW34×H54×D10mmのコンパクトな形状をしています。小型軽量なデザインのため、景観を損ねず展示ケースの中や壁面など様々な場所に目立たずに設置が可能です。取り付け方法も簡単で、アタッチメントや付属の両面テープやネジで簡単に固定できます。電源は内蔵のコイン電池で約1~3年間駆動可能です(機種による)"シンプル・簡単・使いやすい"設計のハードとソフトウェアで構成されているので今までデータロガーを使用したことがない方にも分かりやすく、日々の運用が非常に容易です。

このようにWATCH LOGGERはコンパクトでありながら、温湿度・衝撃の総合的な環境データを高精度で記録できる点に特徴があります。

美術品輸送におけるデータロガーの活用

―振動や衝撃のモニタリング

美術品が輸送中に受ける衝撃は、大きな被害をもたらす可能性があります。特に、陶磁器や木彫品などの繊細な作品は、衝撃によって亀裂が生じたり、塗装がはがれたりするおそれがあります。そのため、輸送中の振動や衝撃の状況を詳細に記録するために、専用の衝撃記録式データロガーが使用されます。

 このデータロガーには高感度の加速度センサーが内蔵されており、作品が受ける振動や衝撃の大きさ(3G~125G)、発生時刻、発生方向(X,Y,Xの3軸)などが正確に記録されます。輸送中の衝撃データを分析することで、どの地点で大きな振動や衝撃が生じたかが特定されます。また、梱包方法の改善点や荷役作業の問題点を見つけることも可能になるでしょう。データロガーによる振動や衝撃のモニタリングを行うことで、貴重な文化財の損傷リスクを最小限に抑えるだけでなく、輸送失敗を未然に防ぐことができるのです。

―国内外での安全な移動をサポート

国内外を問わず、美術品の長距離輸送では、温湿度の変化や振動、衝撃などが作品に大きなダメージを与えるリスクがあります。このような課題に対し、データロガーは以下の点で国内外の安全な美術品移動をサポートしています。



1. 温湿度モニタリング
国や地域によって気候が大きく異なるため、輸送中の温湿度変化を常にモニタリングし、作品に適した環境を維持する必要があります。

2. 振動/衝撃記録
輸送中の振動や衝撃は、作品の損傷につながる大きなリスクです。衝撃記録式のデータロガーを使い、危険な振動や衝撃が起きた地点やタイミングを特定できます。

データロガーは、国内外の温湿度変化や振動、衝撃などのリスクを確実に記録し、適切な対策を講じることで、美術品の安全な長距離輸送を実現しています。移動中に起こりうるさまざまな環境変化を詳細にモニタリングし、作品保護に役立てることが、データロガーの大きな役割なのです。

実際に使用されているお客様の声

―アーティゾン美術館様インタビュー

JR東京駅八重洲中央口から徒歩5分の東京都中央区京橋にある"アーティゾン美術館"は、日本を代表する美術館の一つです。様々な時代の美術品を収蔵・展示しています。こうした貴重な作品を確実に守り伝えていくため、温湿度・衝撃データロガー「WATCH LOGGER」をご使用いただいております。
お客様の声:「アーティゾン美術館 様」

データロガーの将来展望

―技術の進化と美術館業界への貢献

美術館業界で利用されるデータロガーは、温度や湿度、振動・衝撃、光の強さなどの環境要因を正確に計測し、記録することが可能です。そのため、美術品や展示物の保護と保存に重要な役割を果たしています。将来展望としては、データロガーの技術が一層発展し、より高度なセンシングやデータ解析が可能になるでしょう。

 これにより、美術館はより詳細な環境データを収集し、展示物の状態をリアルタイムで監視することができるようになり、美術品の長期保存や展示効果の向上に寄与することが期待されます。データロガーを活用した展示空間の最適化や来館者の快適性向上など、美術館の運営全般において有効な活用をしましょう。

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