データロガーを活用したクリーンルームの温湿度監視
なぜクリーンルームでは温湿度管理が不可欠なのか?
温度や湿度の変化が、製品の性能や寿命に直接影響を与えるからです。クリーンルームでは、製品の種類や製造プロセスに合わせて、最適な温湿度を維持することが非常に重要です。
–クリーンルームとは
クリーンルームとは、高度に管理された特殊な環境空間であり、浮遊する微粒子や埃、微生物を完全に制御し、極めて清潔な状態を保つための施設です。半導体、医薬品、精密機器、航空宇宙、電子機器などの産業分野では、製品の品質と信頼性を確保するために必要不可欠な環境として広く活用されています。クリーンルームの特徴は、空気中の微粒子数を厳格に管理することにあり、ISO 14644-1の国際標準に基づき、ISO CLASS 1から9までの清浄度クラスが設定されています。最も高度なISO CLASS 1では、1立方フィートあたり0.1μm以上の微粒子を10個以下に抑えるという、驚異的な清浄度が備わっています。
クリーンルーム内では、特殊なHEPAフィルターや空調システムにより、外部からの汚染物質の侵入を防ぎ、内部の空気を常に高度にフィルタリングいたします。加えて、温度、湿度、気圧、空気の流れなどの環境パラメータも厳格に管理されます。作業者は、専用の清浄度の高い服装(クリーンルームガウン、手袋、マスク、シューズカバーなど)を着用いただくことで、人体からの汚染も最小限に抑えられます。半導体製造工程をはじめとする産業において、微細な0.1ミクロンの微粒子ですら集積回路に致命的な欠陥をもたらす可能性があるため、極めて高い清浄度が必要とされます。医薬品製造業界では無菌環境の維持が、電子機器製造においては精密部品の品質維持が不可欠です。このように、クリーンルームは現代の高度な技術と製造プロセスを支える不可欠なインフラストラクチャーとして機能しております。
–クリーンルームにおける温湿度管理の重要性
クリーンルーム内の温湿度コントロールは、製品の品質と製造プロセスの安定性を保つ上で非常に重要です。温度と湿度が環境に直接影響を与え、微細な変動が製品の性能や信頼性に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
1. 半導体製造の場合
温度変化が集積回路の寸法精度や材料特性に大きな影響を与えます。たとえ0.1℃の温度差でも、マイクロチップの電気的・機械的特性を変化させ、製品の不良率を増加させる恐れがあるのです。シリコンウェハーの製造では、温度の管理が非常に厳格で、通常20±0.5℃の範囲内で厳密に制御されます。湿度管理も同様に重要で、高い湿度では電子部品が腐食や酸化し、静電気が蓄積しやすくなります。一方、低い湿度では静電気の問題や材料の静電充電が悪化します。多くのクリーンルームでは、相対湿度を45±5%に保つことが一般的で、これにより静電気を抑制し、微粒子の付着を最小限に抑えることができます。
2. 医薬品製造の場合
ワクチンや生物学的製剤は、わずかな温度変化で分子構造が変化し、その有効性が失われる可能性があるため、通常は2〜8℃の範囲で管理が厳密に行われます。また、相対湿度も原料の吸湿性や安定性に影響を与えるため、注意深く制御されています。
3. 精密機器・光学機器製造の場合
部品の寸法精度や光学特性には、温度と湿度の変動が直接影響します。エレメントや精密機械部品の製造プロセスでは、わずかな温度変化1℃でも微少なマイクロメートルの寸法変化を引き起こす可能性があり、こうした微妙な変化が製品の性能に大きな影響を及ぼすことがあります。
これらの理由から、クリーンルームでは高度な温湿度管理システムが導入されています。
–温湿度が製品品質に与える影響
温湿度の変化は、製品の品質に非常に大きな影響を及ぼします。高温多湿の環境では、湿気が凝縮して微粒子が発生しやすくなり、これが製品に付着して性能低下や不良の原因になる可能性があります。低温で乾燥した環境では、静電気が発生しやすくなり、微粒子の付着が増加します。具体的な製品ごとに考えても、温度と湿度の管理の重要性は明らかです。半導体業界では、微小な粒子が付着して回路がショートすることや、静電気によって素子が破損する可能性が深刻な問題となります。製薬分野では、微生物が混入するリスクや湿度による医薬品成分の変化が懸念されます。
こうしたように、温度と湿度の変化が製品の品質に与える影響はさまざまであり、それぞれの製品や製造工程に適した温度と湿度の管理が不可欠です。特にクリーンルームでは、最適な温度と湿度を維持することが高品質な製品の製造と安全性の確保に直結していると言えます。
クリーンルームの種類と特徴
クリーンルームの定義はひとつだけではありません。CLASSいくつに該当するのかが重要なのです。
–クリーンルームのクラス分類(ISO 14644-1に基づく)
ISO 14644-1に基づくクリーンルームのクラス分類は、空気中に浮遊する微粒子の濃度を基準とした国際的な標準規格です。この分類は、1立方メートルの空気中に存在する0.1ミクロン以上の粒子数によって、クリーンルームの清浄度を9つのクラスに分けています。
クラス分類は、ISO CLASS 1から9まで定義されており、数字が小さいほど高い清浄度を意味します。各クラスは、前のクラスと比較して、粒子数が10分の1に減少していくという特徴があります。具体的な各クラスの特徴は以下の通りです。
■ ISO CLASS 1(最も厳格な清浄度)
・立方フィート(約0.028立方メートル)あたり0.1ミクロン以上の粒子が10個以下
・半導体の最先端製造プロセス、高度な研究施設で使用
■ ISO CLASS 2
・1立方フィートあたり0.1ミクロン以上の粒子が100個以下
・超精密電子部品の製造に使用
■ ISO CLASS 3
・1立方フィートあたり0.1ミクロン以上の粒子が1,000個以下
・高度な医療機器、精密光学機器の製造
■ ISO CLASS 4
・1立方フィートあたり0.1ミクロン以上の粒子が10,000個以下
・高性能電子部品、精密機械部品の製造
■ ISO CLASS 5
・1立方フィートあたり0.1ミクロン以上の粒子が100,000個以下
・一般的な半導体製造、製薬工程で広く使用
■ ISO CLASS 6
・1立方フィートあたり0.1ミクロン以上の粒子が1,000,000個以下
・電子部品の組立、一部の医療機器製造
■ ISO CLASS 7
・1立方フィートあたり0.1ミクロン以上の粒子が10,000,000個以下
・食品加工、一般的な製薬工程
■ ISO CLASS 8
・1立方フィートあたり0.1ミクロン以上の粒子が100,000,000個以下
・一般的な製造プロセス、軽度の清浄度が求められる環境
■ ISO CLASS 9
・1立方フィートあたり0.1ミクロン以上の粒子が1,000,000,000個以下
・通常の清浄な室内環境に近い
各クラスは、特定の産業や製造プロセスの要求に応じて選択されます。クラスが高くなるほど、より高度なフィルターシステム、空調管理、そして厳密な入退室管理が必要となります。
–産業別クリーンルームの種類 と各産業における最適な温湿度条件
各産業のクリーンルームは、その特性と製品要求に応じて独自の温湿度管理を行っています。具体例を挙げながら、いくつか見ていきましょう。
1. 半導体製造
ISO CLASS 3〜5の高清浄度環境。マイクロチップの寸法精度と電気的特性の安定化を実現するためには、温度を20±0.5℃、相対湿度を45±5%に保ち、温度変動を±0.1℃以下に抑えることが最適な条件とされています。
静電気対策や微粒子の侵入防止といった特殊要件にも対応する必要があります。これには、製造環境内で静電気の発生を抑制し、空気中の微粒子が製品に影響を与えないようにするための措置が含まれます。
2. 医薬品製造
ISO CLASS 5〜7の清浄度。医薬品の品質を維持するためには、温度を20〜25℃、相対湿度を35〜60%に設定することが適切とされていますが、ワクチンのような特殊な製剤の場合、2〜8℃での保管が求められます。このような温湿度管理は、製品の安定性と有効性を確保するための基本条件です。
微生物汚染の防止や原薬の安定性確保といった特殊要件にも気を付けましょう。こ製品が外部要因による劣化や汚染を受けないよう、適切な環境制御が求められます。
3. 電子機器製造
ISO CLASS 4〜6の清浄度。精密部品の寸法安定性を確保し、製品の品質を維持するためには、温度を21±2℃、相対湿度を40〜50%に設定することが推奨されます。これにより、環境変化による寸法変動や性能の低下を最小限に抑えることができます。
特に、静電気対策が重要な要件となります。静電気放電(ESD)は、精密部品に大きな損傷を与えるリスクがあるため、効果的な管理が求められます。また、微粒子汚染の防止にも配慮しましょう。
温湿度測定に最適なデータロガーの選び方と基礎知識
データロガーを幅広く解説していきます。クリーンルームの環境管理にお悩みの方は、ぜひ参考にしてください。
–データロガーとは
データロガーは、温度、湿度、衝撃などを自動で計測し、その情報を記録する小型の装置となります。人の手作業で行う計測と記録を自動化し、長時間にわたって正確に行うことが可能です。例えば、部屋の温度を1時間ごとに自動で計測し、そのデータを保存する役割です。データロガーは、小型で軽量な設計により、簡単に設置でき、コイン電池駆動により長時間連続的な計測が可能です。これらの特長により、データロガーは幅広い用途に適しており、効率的な環境データの収集を実現しています。
クリーンルームにおいては、データロガーを活用することで、温度や湿度の変化を常に監視し、早期に異常を検知することが可能になります。さらに、記録されたデータをもとに最適な環境設定を見つけ出し、トラブル発生時にはデータ分析を通じて素早い原因究明が行えます。
–機種選定のポイント
株式会社藤田電機製作所の”WATCH LOGGER”はクリーンルームの温湿度管理に最適なデータロガーのひとつです。温度は「-40℃~+80℃」、湿度は「0~99%」の間で測定ができ、内蔵センサーなので精密な測定が可能です。データ管理の面でも、多点同時測定、長時間データ保存、CSV/PDF形式での出力など、柔軟性に富んだ機能を提供します。校正も可能ですので、期にわたり安定した性能を維持す信頼性も兼ね備えています。
藤田電機製作所でもクリーンルームCLASS 10,000(ISO クラス7相当)を所有しておりますので、クリーンルームとロガーの親和性が高いです。クリーンルームに関しての詳細は”株式会社藤田電機製作所のEMSホームページ”でご紹介しています。
クリーンルームにおけるデータロガーの活用
クリーンルームにおける温湿度管理の可視化において、株式会社藤田電機製作所の"WATCH LOGGERソフトウェア"に搭載されたマッピング機能は、環境管理の高度化を実現するための強力な支援を提供します。
–マッピング機能でデータ分析と可視化
温湿度管理を「見える化」することで直感的な環境理解を可能にします。クリーンルーム内の各測定点の温湿度を色分けマップで表示し、複雑なデータも視覚的にシンプルに表現します。測定データをまとめて読み込むだけの簡単作業です。また、長期トレンド分析を通じて設備性能の経年変化を把握し、予防保全に活用できます。
温湿度管理における注意点
温湿度管理において、正確なデータに基づいた適切な制御を行うことは重要です。しかし、温度と湿度を測定するセンサーは、使用環境や経年変化によって性能が変化するため、注意深く扱う必要があります。
–センサーの精度
温度と湿度を測定するセンサーは、使用環境と経過時間によって徐々に性能が低下し、特に湿度センサーは約1年で精度変化が生じる可能性があります。温度センサーは比較的安定しており、劣化も緩やかですが、湿度センサーは環境条件に非常に敏感で、より管理が必要となります。このため、センサーの精度を維持するためには、年に1回の校正が不可欠です。校正でトレーサビリティを確保することが重要です。(参考記事:「データロガーの校正とは?その重要性と目的の詳細解説」)
–測定の均一性
温度や湿度の計測において、異なる計測器同士の比較は、一見簡単に思えるかもしれませんが、実際には非常に複雑で注意深く行う必要があります。2つの計測器の数値を単純に比較するだけでは、正確な評価が難しく、逆に誤解を招く可能性が高いです。比較する際に最も重要な要素は、「価格帯」「使用しているセンサー」「購入時期」の3つです。これらの条件が異なる計測器同士を比較すると、本質的に意味をなさず、大きな誤差を引き起こすことになります。
価格帯の違いは、センサーの精度と密接に関連しています。専門用センサーと低価格な汎用センサーでは、その計測精度に大きな差があります。例えば、クリーンルーム向けの高精度センサーと一般家庭用の温湿度計では、±0.1℃と±0.5℃のように、精度に大きな違いがあります。また、測定に用いるセンサーの技術は、測定結果に大きな影響を与えます。サーミスタ、白金測温抵抗体、熱電対などの異なるセンサー技術は、それぞれ独自の特性と誤差を有しており、同一の環境下でもセンサー技術の違いにより数値に差が生じることがあります。購入時期も重要な要素であり、センサーは使用環境や時間経過により劣化し、その精度が変動します。特に湿度センサーは約1年で性能が著しく低下するため、購入時期が異なる測定器を比較することは、誤った結論を導くので注意しましょう。
データロガーの重要性と温湿度管理の未来
クリーンルームにおける温湿度監視は、もはや単なる技術的管理を超えて、製造業の競争力を左右する戦略的な取り組みとなっています。
–クリーンルームにおけるデータロガーの重要性
データロガーはクリーンルームにおいて欠かせない存在であり、継続的なモニタリングやデータ解析を通じて環境条件を最適化することができます。温湿度管理の重要性を理解し、適切なデータロガーを活用することで、クリーンルーム環境の安定性と製品品質の向上に貢献するでしょう。