
ISO22716における温度・湿度管理とデータロガーの重要性
化粧品の製造と品質管理を規定するISO22716(化粧品GMP)において、温湿度管理は製品の安全性と品質を左右する重要な要素です。この国際規格は温湿度の測定を明示的に義務付けてはいないものの、原料の劣化防止、微生物汚染の抑制、製品安定性の確保といった観点から、適切な環境管理が不可欠とされています。こうした課題に対し、データロガーはどのように活用されているのでしょうか。
目次ISO22716とは?
–化粧品の製造・品質管理のための国際基準
ISO22716(化粧品GMP:Good Manufacturing Practices)は、化粧品の製造と品質管理に特化した国際標準規格です。この規格は、化粧品の生産全般にわたる適切な管理手法を明確に定めており、原料の受け入れから製品の出荷に至るまでの工程全体で徹底された管理を求めています。
製造施設のデザインや設備配置、衛生管理、従業員の教育、品質検査など、生産プロセスの各段階で遵守すべき基準が具体的に示されており、世界中の化粧品メーカーがこの規格に遵守することで、安定した品質水準を維持し、安全で効果的な製品を消費者に提供できます。各国の規制機関が国内の化粧品規制にISO 22716を採用することで、国際的な規制の一体性を目指しています。この規格は法的拘束力のある国・地域も多いわけではありませんが、産業界においてベストプラクティスとして幅広く認識され、品質管理の基準として重要視されています。
–温湿度管理の重要性
製造環境の管理は重要な項目とされており、その一環として温度や湿度の管理も対象に含まれます。ただし、必ずしも温度・湿度を測定しなければならないと明記されているわけではなく、その必要性は製造や保管の内容、製品の特性に応じて判断されます。たとえば、製造工程において「温度や湿度が品質に影響を与える原料や製品を扱う場合」、「保管中に特定の温度・湿度範囲を維持する必要がある場合」、「微生物汚染や化学変化を防ぐため一定の清浄環境が求められる作業室がある場合」などでは、温湿度の測定が必要とされます。
また、「品質保証部門が製品に温度逸脱による劣化リスクがあると判断した場合」も、測定が求められることがあります。一方で、「常温で問題のない製品や原材料のみを扱っている場合」、「製造・保管エリアが常に適切な環境にあり品質に影響を与えないと証明できる場合」、「特別な環境管理が不要と判断された簡易な作業室」であれば、温湿度の測定や記録が必ずしも必要とは限りません。
化粧品の品質に温湿度が与える影響
温度と湿度は化粧品の品質に大きな影響を与える要因であり、ISO22716においても重要な管理項目として位置づけられています。温湿度管理が化粧品品質に与える影響は以下の観点から考えることができます。
–原料の劣化防止
化粧品原料は温度や湿度の影響を受けやすく、適切な条件下で保管しなければ品質劣化を招きます。
1. 高温環境
油脂成分の酸化が促進され、香料の変質や色素の退色、有効成分の分解が起こりやすくなります。また高湿度環境では、吸湿性のある粉末原料が固化したり、加水分解による品質変化が生じたりします。
2. 低温環境
一部の成分が析出・分離したり、容器が破損したりする恐れがあります。さらに急激な温度変化は製品の分離や結晶化を引き起こし、容器にも悪影響を及ぼします。
特に光・熱・湿気に敏感な成分については、その特性を考慮した保管条件の設定が不可欠です。
–微生物増殖リスクの軽減
温度と湿度は微生物の増殖に直接的な影響を与えます。特に高温多湿環境は多くの微生物にとって最適な生育条件となり、製品汚染のリスクを高めます。製造環境の温湿度管理と清浄度維持、原料の微生物規格、製品の適切な保管、容器設計を重視し、空調システムなどで微生物管理を徹底しましょう。
–製品安定性の確保
化粧品は温度変化により乳化状態の分離、粘度変化、内容物の凝集や沈殿といった物理的変化が生じる可能性があるので使用期間中、品質が変化しないことが求められます。製品安定性確保のため、開発段階での安定性試験に加え、製造・保管・輸送における温湿度管理の重要性を強調しています。季節変動や地域間の気候差も考慮した包括的な温湿度管理システムの構築が、高品質な化粧品を消費者に届けるための基盤となります。
具体的な品質問題事例とその原因
いくつかは、温湿度管理の不備から生じることが多く、適切な管理の重要性を示しています。
1. エマルション製品の分離
スキンクリームやローションなどのエマルション製品において、出荷後に油相と水相が分離する問題が発生。このような分離の主な原因は、製造工程中または保管中の温度管理の不備によってエマルションの安定性が損なわれることにあります。特に夏季の高温環境下での輸送時や、店舗での陳列中に高温にさらされることで安定性が崩れることがあり、さらに温度変化が繰り返されることで、エマルション構造そのものが破壊されてしまうケースも見られます。
2. 微生物汚染
「低刺激」をうたって防腐剤の使用を最小限に抑えた製品において、微生物汚染が発見される。このような汚染の原因としては、製造環境が高湿度であったことにより微生物が増殖しやすくなっていた点、原料の保管時に温度・湿度管理が不十分であったため原料自体が汚染されていた点、さらに水系製品の製造過程において特に夏季に適切な温度管理が行われていなかった点などが挙げられます。
3. 容器や包装の変形
プラスチック容器の変形や密封性の低下によって製品が漏れるというトラブルが発生。問題の主な原因としては、高温の倉庫で保管されたことによりプラスチック素材が軟化したことや、温度の上昇・下降を繰り返すことで容器が膨張・収縮を繰り返し、素材の変形につながったことが挙げられます。また、湿度の変化によって包装材自体が劣化し、密封性が損なわれたことも要因の一つです。
4. 粉末製品の固化
フェイスパウダーやアイシャドウなどの粉末製品が塊になり使用感が損なわれる。これは、高湿度環境での保管による粉末の吸湿や、温度変化による結露の発生とそれに伴う粉末の固化、さらには製造工程中の湿度管理不足などが複合的に影響して起こりました。
データロガーによる効率的な管理
原料の劣化防止、微生物増殖リスクの軽減、製品安定性の確保といった品質管理の基本要件を満たすためには、温湿度の継続的かつ精密な監視が不可欠です。このような背景から、データロガーは化粧品製造における温湿度管理の最適なツールとして広く採用されています。
–データロガーとは?

温度や湿度などの環境パラメータを自動的に測定・記録する電子機器です。24時間365日の連続記録が可能なため、夜間や休日を含む全期間の環境変化を捉えることができます。この継続的な記録は、製品品質に影響を与える可能性のある一時的な温湿度変化も見逃しません。手動による記録と比較して、人為的ミスや記録漏れのリスクを大幅に軽減し、データの信頼性と完全性を高めることができます。
さらに、多くのデータロガーには設定値を超えた際のアラート機能が搭載されており、温湿度の逸脱を即座に検知して対応することが可能です。これにより、問題が大きくなる前に予防的な措置を講じることができ、品質リスクの最小化につながります。また、蓄積された温湿度データを分析することで、季節変動や日内変動などのパターンを把握し、環境管理の最適化や将来的な問題の予測も可能になります。
–化粧品製造プロセスの全段階に使用できる

流通全体の品質保証を強化できる、実際の使用例をみていきましょう。
1. 原料倉庫
温度感受性の高い原料や湿気に弱い粉末原料の品質維持のために温湿度を常時監視します。特に変動リスクの高い入荷エリアや出荷準備エリアでの管理は重要です。
2. 製造エリア
製品の物理的・化学的安定性に直接影響する環境条件を監視し、特にエマルション製造や充填工程など、温湿度の影響を受けやすい工程での使用が推奨されます。
3. 保管環境
常温保管が一般的な製品でも、極端な高温・低温・高湿を避けるための監視が必要です。特に熱や湿気に敏感な成分を含む製品は、保冷庫での保管が必要になることがあり、その温度管理にもデータロガーが活用されます。
–ISO22716に適しているロガー
厳格な管理要件に対応するデータロガーとして、藤田電機製作所の”WATCH LOGGER”シリーズは多くの化粧品メーカーで使用されております。
1. 高精度な測定能力
化粧品原料や製品は温湿度の微妙な変化に敏感であり、特に高級化粧品や機能性成分を含む製品では、わずかな環境変動が品質に影響を及ぼします。±0.3℃という高い温度測定精度と±5%RHの湿度測定精度を実現しており、厳密な品質管理が求められる化粧品製造環境に最適です。
2. 堅牢性と信頼性
化粧品製造現場では、製造工程の振動や清掃時の水濡れなど、機器に負担がかかる状況が少なくありません。IP67(水深1mに30分浸けても影響を受けない)を取得した耐衝撃性と防水性に優れた設計となっており、過酷な製造環境でも安定した動作を継続できます。バッテリー寿命も長く、頻繁な交換作業が不要なため、24時間365日の連続記録が容易に実現できます。
3. 使用場所を選ばないサイズ感
特に小型・軽量モデルはデシケータ内部や小型の保冷庫内での使用に適しており、スペースに制約のある場所でも設置が可能です。
4. 校正が可能な日本国産データロガー
"WATCH LOGGER"シリーズは日本製であり、安定した品質と長期的なサポート体制が確立されています。機器の校正サービスも充実しており、国際標準にトレーサブルな校正証明書の発行も可能です。これは測定の信頼性を保証するための重要な要素であり、ISO22716の求める品質システムの一部としても評価されます。
まとめ
ISO22716における温湿度管理とデータロガーの重要性は、化粧品の製造において品質と安全性を確保するために欠かせない要素であることが理解されます。製造業者様はこれらの要素を適切に管理し、消費者に安心して利用できる製品を提供していただけますようお願い申し上げます。